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死んでから俺にはいろんなことがあった

Lots Happened To Me After I Died
<a href="https://eulitfest.jp/year2024/speakers/entry-314.html">リカルド・アドルフォ</a>

 郵便配達をしていた俺は故郷の「くに」から逃げてきた。妻のカルラと幼い息子とともに「島」で不法滞在している。買い物をした帰りに乗っていた地下鉄が故障で止まってしまい、右も左もわからない場所で降ろされてしまった一家。なんとか家にたどり着こうとあれこれ画策するが、やることなすことすべてが裏目に出て━━。周囲から存在を認められず、無視され続ける移民の親子は、果たしてどうなるのか?

死んでから俺にはいろんなことがあった


木下眞穂 訳
(書肆侃侃房、2024年)

家への帰路を失うということは、新しい靴下を、でかすぎたりゴムが切れていたりするパンツを、かかとがすり減ったブーツを、俺たち三人の写真とすぐそばにいてほしいと思っていた人たちの写真を、手紙を、好きな歌を、肉の煮込みの残りを、まだ硬い桃を、鎮痛剤を、修理が必要なランプを、ソーサーに立てたロウソクを、カルラがまだ読んでいない二冊の本を、予備の傘を、三本のロザリオを、壊れたミニカーを、クマのぬいぐるみを、生理用ナプキンとピルを、サンダルを、懐中電灯を、タオルを、三組のナイフとスプーンとフォークと三枚の皿を、二個のグラスと一個の幼児用カップを、二つの鍋と電子レンジを、歯ブラシを、身分証明書を、櫛を、高価だった爪切りを、ファティマの聖女のフィギュアを、くにから持ってきたライターを、ベッドの脚の中に隠してあるカネを、くにのサッカー代表ユニフォームを、透明の緑の花瓶を、床を拭くモップとバケツを、物干し台を、くにの古い新聞を、季節をわざわざ教えてくれる四季の移ろいが描いてあるカレンダーを、ビデオ屋やスーパーや靴屋やガソリンスタンドの古いポイントカードを、携帯やスーパーのレシートを、最初の給料を手にしたら妻と息子を連れて行こうと決めているインド料理屋のチラシを、くにの友人や親戚の住所リストを、黄色い延長コードを、ゴミ用にためてあるレジ袋の山を、島の言葉で格言らしきものが書いてあるカーペットを、過去を、未来を、すべてを失うということだ。現在を失うことはない。現在は俺らの肉体にべったりへばりついているからだ。

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