ぼくのボートの作り方(仮邦題)
イレイン・フィーニー
ジェイミーは頭の中で今日という日を思い描き、
寝室は雨の音で満たされている。雨音はエオインがアルゴスで買ってきたセンサリーマシンから流れている。ピンク色の光が壁を照らし、それから光は赤色になり、ジェイミーは、自分はラバライト(訳注:カラフルに色付けされたインテリア用のライト)の中で浮いているのだと思う。
今日が
月曜日だったらいいのに
偶数の
26日だったらいいのに
だけど今日は奇数の
19で、
歳も奇数で、奇数の中でも一番奇数で不運な
13で、
だからちょうどいいんだろう。
ジェイミーは午後3時に生まれたので、3はラッキーナンバーで、だからジェイミーは“おはよう”と3回つぶやき、伸びをして、手のひらを脚にすべらせて新しく生えた毛を数える。5、6、7。7本。
奇数は祝福の数じゃない(3だけは別だ)
だから、
ジェイミーは温かな紫色の血管をなぞり、人差し指と親指で毛をつまんで体から引き抜く。ハワイのキラウエア火山のようにいまにも爆発しそうな体。噴火間近の体から。ジェイミーは両腕をうしろに伸ばしたままベッドを下りた。演技を終えようとしている体操選手のように、うしろ手にはしごをつかむ。それから、下の段のベッドにきちんと並べた本を手のひらでなでた。
小学校に入ると、おびただしい数の誕生日会への招待状が届いた。保護者たちが礼儀として送ってきたものだ。だが、招待状は次第に減り、とうとう数枚になった。二年生になるころには、猿やピエロの絵がついた、色とりどりの文字が踊る招待状が通学鞄に詰めこまれることはなくなった。転校生のテリーの招待状だけは例外だったが、その会も悲惨な結末を迎えた。友だちのお泊まり用にする予定だった下の段のベッドは、ジェイミーの〈特に大事な本置き場〉に降格/昇格した。本はむき出しのマットレスの上で亀のように並んでいた。シミひとつない表紙には几帳面なメモ書きが貼られている。日付と出版された場所。読み始めた日。読み終わった日。読んだ直後の感想。一番の目玉は――“ジェイミー・オニールの星評価”だ。
星評価は手厳しく、山積みになった本の中でも、手書きの“ジェイミー・オニールの星”を五つ獲得したのは一冊だけだった。それが『エドガー・アラン・ポーの詩と小説全集』だった。
ジェイミーは寝室の窓から外をのぞき、似たような瓦屋根が並ぶ町並みの先の空を眺めた。隣の家の軒先に停まっていたマリーの車はすでにない。ジェイミーは燃えるような赤に染まった空を見つめた。
羊飼いの警報。
羊飼いの警報。
夕焼けは
よろこび。
ジェイミーはパソコンの電源を入れ、パジャマのまま椅子にかけ、温かな脚から残りの毛を抜いた。脚の毛は理解不能だ。眉毛は汗を止めるし、マリーによれば下の毛は感染を防ぐのに必要らしい。だが、どうして脚に毛が生えるのかは理解できない。上唇の上の毛と同じで邪魔にしかならない。
ユーチューブを開き、マリアム・ミルザハニの『曲線の力学的モジュライ空間』という講義を流す。マリアムは笑顔で登場した。ここのチョークは最高ね。マリアムは言い、ジェイミーも、緑のセーターを着たピクシーカットの彼女に笑顔を返す。マリアム・ミルザハニを見ていると、安全だと思う。マリアムが板書をしたり、束(そく)の流れについていきいきとした早口で語るのを見ているのは。マリアムはフィールズ賞を受賞した女性初の数学者で、数学者でありながら作家志望で、マリアムの娘は、研究しているときの母親は絵を描いているみたいですと言ったことがある。