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詩集『瞬間』Chwila

Chwila

ヴィスワヴァ・シンボルスカ

Wisława Szymborska
ヴィスワヴァ・シンボルスカ

ヴィスワヴァ・シンボルスカ
Wisława Szymborska

ヴィスワヴァ・シンボルスカ(1923~2012)
ポーランドの詩人、随筆家。ヤギェロン大学卒。生涯に発表した350編の詩作品は、いずれも批評家・読者から高く評価された。簡潔で平易ながら深遠な作風で、全世界に多数の愛読者を持つ。1996年ノーベル文学賞受賞。詩集に『Sól(塩)』(1962)、『Wielka liczba(大きな数)』(1976)、『橋の上の人たち』(1986)(工藤幸雄訳、書肆山田)、『終わりと始まり』(1993)(沼野充義訳、未知谷)、『瞬間』(2002)(沼野充義訳、未知谷)など。他に、日本で独自に編まれた『シンボルスカ詩集』(1999)(つかだみちこ訳、土曜美術社)もある。

Wisława Szymborska (1923-2012)
Polish poet and essayist. She graduated from Jagiellonian University. All 350 poems she published during her lifetime ware highly praised by critics and readers. Her laconic, plain, yet profound style has many devotee all over the world. She was awarded the Nobel Prize in Literature in 1996. Her poetry collections include Sól (Salt) (1962), Wielka liczba (Big Number) (1976), People on a Bridge (1986) (translated to Japanese by Yukio Kudo, published by Shoshi Yamada), Koniec i początek (The End and the the Biginning) (1993) (translated by Mitsuyoshi Numano, published by Michitani) and Chwila (Moment) (2002) (translated by Mitsuyoshi Numano, published by Michitani). There is also a collection of her works originally compiled in Japan, Szymborska Poems (1999) (translated by Michiko Tsukada, published by Doyo-bijutsu-sha).

出版社:未知谷
ヴィスワヴァ・シンボルスカ
沼野充義訳


『瞬間』
新緑が萌える丘の斜面を歩いていく。
子供のための絵のような
草と、草の小さな花々。
空はかすみ、はなだ色に広がる。
静かに連なる遠くの丘が見える。
まるでカンブリア紀もシルリア紀も
猛りいがみあう岩山も
隆起しそびえ立つ絶壁も
炎に包まれた夜も、闇の雲に閉ざされた昼も
ここにはなかったかのようだ。
ここを通っていった平原は
悪性腫瘍の熱にうかされることも
氷におののいたこともなかったかのようだ。
海が荒れ狂い、水平線の岸辺を引きちぎったのは
どこか他の場所だけだったようだ。
ここはいま九時三〇分。
なにもかもが本来の場所に収まり礼儀正しく和している。
谷には小川が小川として流れる。
小道の姿の小道が永遠から永遠へ続く。
森に見える森が永久(とわ)に繁る。
その上では空飛ぶ鳥たちが空飛ぶ鳥たちを演じる。
見渡す限りここを支配しているのはこの瞬間。
それはいつまでも続くように招かれた
地上の瞬間のひとつ。

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