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日本に住む、日本を書く

23 Fri (National holiday) -
シューマン講堂

ヨーロッパ出身作家の目には、日本はどのように映るのでしょうか。東京在住のリカルド・アドルフォや京都在住のラウリ・キツニック、2014年にアーティスト・イン・レジデンスとして京都に滞在経験のあるアン・コッテン、歴史学者であると同時に、江戸時代初期の出島を舞台にした小説やオランダ東インド会社職員が鎖国時代の日本での体験を語る小説も手がけているペーター・J・リートベルゲンに、日本が彼らの執筆活動に与える影響について伺います。

リカルド・アドルフォ Ricardo ADOLFO(アンゴラ生まれのポルトガルの作家。最新刊『東京は地球より遠く』では日本で働く外国人のサラリーマンの目から見たおかしな日本の日常を描いている

アン・コッテン Ann COTTEN(アメリカ生れのオーストリアの作家。詩集『外来語辞典ソネット』や日本語と取り組んできた中で生まれた『Jikiketsugaki. Tsurezuregusa』など)

ラウリ・キツニック Lauri KITSNIK(エストニア出身の詩人、翻訳者。ケンブリッジ大学と東京大学で文学や映画を研究、現在京都在住)

ペーター・J・リートベルゲン Peter J.A.N. RIETBERGEN(歴史学者、ナイメーヘン・ラドバウト大学名誉教授。別名で日本を舞台にした歴史小説を執筆) 

聞き手/司会:エリス俊子 Toshiko ELLIS (東京大学教授、日本文学・比較文学)

リカルド・アドルフォ Ricardo ADOLFO

1974年にアンゴラに生またリカルド・アドルフォはアンゴラは、現在東京に在住するポルトガル人作家である。2003年に短編集『すべてのチョリソーは焼くためにある (“Os Chouriços São Todos para Assar”)』 でデビュー。初長編『ミゼー(“Mizé”) 』はポルトガルでベストセラーとなり、スペイン語、ドイツ語、オランダ語に翻訳された。2007年、ウォン・カーウァイ監督が制作した短編映画『There’s Only One Sun』を共同制作。長編第3作『俺が死んだらいろいろ起きた(”Depois de Morrer Aconteceram-me Muitas Coisas”)』(2009)はスウェーデン語、フランス語に翻訳されている。長編第4作『ショット・ガンのマリア (”Maria dos Canos Serrados”)』は多くの反響があり、ポルトガルの “Visão”誌20周年記念号ではエルサレム賞受賞作家のアントニオ・ロボ・アントゥネスによって「ポルトガル文学界の未来の顔」として選ばれた。最新刊『東京は地球より遠く(“Tóquio Vive Longe da Terra”)』では日本で働く外国人のサラリーマンの目から見たおかしな日本の日常を描いている。リカルド・アドルフォの短編は、現代企画室から出版が予定されている「ポルトガル現代文学選集(仮題)」の第1巻の短編集に収められる予定である。

アン・コッテン Ann COTTEN

アン・コッテン(1982年アメリカ生れ)は、ウィーンでドイツ文学を学び、具体詩(コンクレーテ・ポエジー)に関する論文で卒業した。ベルリンや東京に在住経験がある。彼女のエッセイ、詩、散文の持つラディカルな美しさにより支持され、特にアーティストや作家仲間での評価が高い。2007年、最初の著書である詩集“Fremdwörterbuchsonette”を出版、物議を醸した。2010年には2冊目となる著作”Florida rooms”を発表。異星人の主催するコンテストに様々な作家から寄せられた散文と詩を集めたという想定になっている。彼女の最初の日本滞在のあと、短編集“Lather in Heaven” (2016)が編まれた。その他、スペンサー詩形の叙事詩“Verbannt” (2016)や、アメリカについてのエッセイ“Fast Dumm” (2017)などが主な著作として挙げられる。ラインハルト・プリースニッツ賞を2007年に、そして最近ではエルンスト・ブロッホ哲学奨学賞を2015年に受賞しているほか、たくさんの受賞歴がある。

ラウリ・キツニック Lauri KITSNIK

ラウリ・キツニック 1978年タリン生まれ。詩人・翻訳者。ケンブリッジ大学と東京大学で文学や映画を勉強。現在京都大学人間・環境学研究科日本学術振興会特別研究員。

詩集に『Ühtlasi(2002)と『マーマレード』(2010、邦訳を含む)。

谷川俊太郎と藤井貞和のエストニア語訳で2011年タリン大学文学賞受賞。来年、多和田葉子『容疑者の夜行列車』の翻訳が出版予定。

ペーター・J・リートベルゲン Peter J.A.N. RIETBERGEN

ペーター・J・リートベルゲン。1950年生まれ。ナイメーヘン・ラドバウト大学名誉教授。

オランダ、ナイメーヘン・カトリック大学にて歴史学を研究。その間、パリとローマにてリサーチを行い、論文「Pausen, Prelaten, Bureaucraten: Geschiedenis van het Pausschap en de Pauselijke Staat in de zeventiende eeuw(英訳「Pope, Prelates, Bureaucrats: History of the Papacy and the Papal States in the seventeenth century」)」を書き上げ博士号を取得。その後、研究者としての輝かしいキャリアを重ねながら、「Tijdschrift voor Geschiedenis(英訳「Magazine of History」)」誌編集者、オランダ高等研究所フェロー、オックスフォード大学クライストチャーチカレッジ客員研究員を務める。

 

リートベルゲン教授は、ヨーロッパ地域のみならず、アメリカ、アジア地域におけるヨーロッパ文化史にまで幅広く興味を持つ。先史時代からのヨーロッパ文化の歴史を記した「ヨーロッパ:文化史(原題「Europe: A Cultural History」)」(2015年改訂第3版刊行)は、世界中で読まれており、中国語や韓国語、その他多くの言語に翻訳されている。

 

この点を踏まえ、彼が日本について2冊の本を出版したことにも言及すべきであろう。ニコラース・ベルグ(Nikolaas Berg)というペンネームで江戸時代初期の出島を舞台にした歴史小説「Dood op Deshima, of De Weg en de Orde (「Dead at Deshima, or the Way and the Order」(2000年刊行)と、オランダ東インド会社職員が鎖国時代の彼らの日本での体験を書いた素晴らしい本「Japan Verwoord. Nihon door de Nederlandse Ogen 1600-1799」 (英訳「Japan Voiced. Nihon through Dutch Eyes 1600-1799」)(2003年刊行)がある。数多くの出版物があるにも関わらず、彼のベストセラー「オランダ小史 先史時代から今日まで」(原題「A Short History of the Netherlands」)が2018年8月に初めて邦訳刊行されるまで、どの作品も邦訳されることはなかった。

港区南麻布4-6-28 ヨーロッパハウス 日比谷線「広尾駅」出口1より徒歩約10分