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『素粒子、象とピエロギと ─101語のポーランド─』より「Książka (本)」

"Książka (book)" from Quarks, Elephants & Pierogi: Poland in 100 Words

ミコワイ・グリンスキ

『素粒子、象とピエロギと ─101語のポーランド─』より「Książka (本)」


柴田恭子 訳

ポーランドにいると、クシェンガルニャ księgarnia(本屋)の看板の下、この単語が「変装」しているのに気づきます。
 語源辞典によると、ポーランド語のクションシュカ książkaは、もはやそう認識されていませんが、クシェンガ księgaから作られた指小形です。このクシェンガという言葉は(クシェンガルニャという語には含まれているものの)、今日ではよほどの重厚な本を指すときにしか、使われることはありません。
この単語そのものは、かつてのクニェンガ knięga、また究極的にはスラヴ語のクニガ knigaにまでさかのぼります。言語学者たちは、「s」が本来の「n」に取って変わられるのは、ポーランド語で中世までさかのぼる、言語学上の新案であるといいます。クシェンジツ księżyc(月)もまた、kn-から始まるスラヴ語の例です。
 けれども、こうしたことを知らなくても、ポーランド語でもっとも重要なクションシュキ książki〔książkaの複数形〕がどんなものであったか、振り返ることはできます。ポーランドで最初の本、つまりポーランド人によって初めて書かれた本は何でしょうか?これは、12〜13世紀頃にヴィンツェンティ・カドウゥベク(Wincenty Kadłubek)による、ラテン語の『クロニカ・ポロノルム』  Chronica Polonorumです。ポーランド語で初めて書かれた本はどうでしょうか?1500年頃の『プシェムィシルの瞑想』Rozmyślanie Przemyskie(ロズムィシラニェ・プシェムィスキィエ)です。
 ポーランドで生まれ、世界を変えた本もあります。コペルニクスは『天球の回転について』 De Revolutionibus orbium coelestium(1543)で、私たちの宇宙のとらえ方を一変させました。ほかにも、政治的な大事件を誘発し、歴史を変えた本もあります。例えば、アダム・ミツキェヴィチ(Adam Mickiewicz)の『コンラット・ヴァレンロット』 Konrad Wallenrod(1828)は、11月蜂起(1830年)の勃発に影響を与えたと言われています。
 ノーベル賞を受賞した ピサジェ pisarze〔ピサシュ pisarzの複数形〕(作家)の本も、まちがいなく重要でしょう。ポーランド文学には、幸運なことに、これまで5人の受賞者がいます。ヘンルィク・シェンキェヴィチ(Henryk Sienkiewicz、1905年)とヴワディスワフ・レイモント(Władysław Reymont、1924年)に始まり、チェスワフ・ミウォシュ(Czesław Miłosz、1980年)とヴィスワヴァ・シンボルスカ(Wisława Szymborska、1996年)、そしてオルガ・トカルチュク(Olga Tokarczuk、2018年)です。
 そして、数多くの戦争や抑圧・迫害の中、保管されていた図書館ごと消え去ってしまった、重要な書籍や原稿がたくさんありました。ブルーノ・シュルツ(Bruno Schulz)の遺稿と言われている『救世主』Mesjasz(メスィヤシュ)のように、実在したか定かではないものの、是非読んでみたいという本もあります。これら失われた数々のページも大切です。

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