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『エジプト人』より第6章 第六の書 偽王の日(抜粋)

Kuudeskirja (Chapter 6) Väärän kuninkaan päivä (The day of the False King) from Sinuhe Egyptiläinen

ミカ・ワルタリ

Mika Waltari
『エジプト人』より第6章「第六の書 偽王の日」(抜粋)

Mika Waltari
セルボ貴子 訳

5

男はカプタの足元に額をすりつけ、泣き叫んだ。

「王ほど賢い方はいらっしゃいません、四方の大地の支配者よ。そこで正義を行使して頂きたくお話申し上げます。私には四年前にめとった妻がおり、子はおりませんでしたが、今、妻が妊娠しているのです。昨日、妻がとある兵士と浮気していたことを知りまして、その現場をおさえたところそいつは屈強な奴で、仕返しすることができませんでした。どうすれば生まれてくる子が私の子か兵士の子か知ることができるのだろうかと、私は不安でたまらないのです。ですから王のお裁きを受け、私の子か兵士の子か、確かなことを知りたいのです。そうすればそれに従ってどうするか決められるでしょう」

カプタは口を閉じ、困り果てて周囲を見渡したが、しまいに思い切ってこう言った。「杖を持ってきて、この男を打て。今日という日を忘れないように」法の執行人たちが男を取り押さえて杖で打ったので、男は悲鳴を上げ、民に訴えた。「これが正義なのか?」民衆も口々に不平を漏らし説明を求めた。するとカプタが言った。

「この程度のことで私を煩わせたというだけでも、この男は鞭打ちの刑に値する。それどころか、こいつの愚かさをもってすれば、もっと打たれてしかるべきであろう。自分は畑に種を蒔かずにいながら、他の者がよかれと思って種を蒔き、その収穫をすっかり刈り取れるというのに文句を言うなんて、聞いたことがあるか?それに、女が他の男になびいたとしたら、それは女のせいではなく、男に非があるのだ。女が何を求めていたか気づきもしなかったのだから、打たれて当然である」

これを聞いた民衆は大声で叫び、笑い、王の賢明さを大いに称えた。次に、老いた男が深刻な面持ちで王の前に進み出て、こう言った。「法が刻まれたこの石柱と王の前に、次の要件について正義を求めるのであります。私は道路に面したところに自分の家を建てたのですが、親方にだまされ、家が崩れ、そのときたまたま通りかかった人が巻き込まれて死んでしまったのです。その人の遺族が私を責め、償いをせよと言っております。どうするべきでしょうか?」

カプタは考えた末に言った。「これは面倒な案件だからしっかりと考えなくてはならん。人間の領域というよりも神々の領域だと思うが、こんな場合に法はどうせよと言っているのだ?」

法学者たちが前に進み出て、石柱に刻まれた法を読み上げて説明した。「もし親方の不注意で家が崩れ、家の持ち主を死なせてしまったなら、親方を殺さねばなりません。もし家が崩れる際に持ち主の息子を死なせたのであれば、親方の息子を殺さねばなりません。これ以上のことは法に記されておりませんが、この法を読み解くと、家が崩れたときに滅びたものについては、親方がその責めを負うべきであると解釈できます。他に申し上げることはございません」

カプタは言った。「この辺りにそんなずる賢い親方がいるとは知らなかったな。今後気を付けるとしよう。ともあれ、法によるとこの件は単純である。亡くなった通行人の家族は、親方の家に行って、待ち伏せをし、最初に通りかかった奴を殺せばよい。そうすれば法を遵守したことになろう。ただ本当にそうするならば、その通行人の家族が殺人の罪を償うよう求めてきたときは、その責めを負うがよい。なぜなら先に言ったように、これは人というよりも神々の領域だからな。最もけしからんのは崩れかかった家の下を通りかかった者である。少しでも脳みそがある奴ならそんなことはしない、神々が定めたのでもなければな。よって、親方をすべての責めから放免し、私に裁きを求めてきたこの申立人を間抜けであると宣言する。ちゃんと仕事をするよう親方を監督しなかったからあざむかれたのだ。間抜けは騙されても当然であり、そこから学んでいくものだ。これまでもそうであったし、これからもものごとは変わりゃしないだろう」

またしても民は王の賢明さを大いに称え、申立人はすごすごと引き下がった。(仮)

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